お母さんのネックレス

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「あなたが大人になったら、お母さんが一番大切にしているネックレスあげるね。」
それはもう何年も昔の事だったが、化粧鏡越しに母が私を見て言った事だった。

「え〜、今がいい。」

私は言った。その頃の私はどちらかと言うと、聞き分けが悪かったのだ。

 

「今はダメよ。だってまだ、ナナちゃん子供だもん。もっとするとね、きっとステキな人と出会って一生分の恋をするの。もうそれこそ価値観が360°変わるようなね。」

「お母さん、360°って元に戻っちゃってるよ。」

「やっぱり、ナナちゃんは分かってないわね。元に戻っちゃうような恋はウソの恋よ。本当の恋は、グルッと回ってね、一回り成長できるのよ。そりゃもう、前と同じ景色を見ても待ってく違う見え方がしてくるんだから。」

「そういうもんなの?」

「そう、そういうもんなの。」

 

こんな会話も今は懐かしい。今ならお母さんが言った事が分かる。
私は母がくれたダイヤのネックレスを胸元で握りしめながらしみじみと思った。

 

「そう、そういうもんなの。」

 

私は、鏡越しの娘にそう言って、懐かしさに微笑んだ。

目をまん丸にした娘の顔を見たら、もしかしたら昔の私もそんな顔をしてたのだろうと思った。