月夜
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果樹園の木が月に照らされて、
近くの木はくっきりとしたコントラストで、
葉の何枚かはその受けた光を空中へと返している。
遠くに見える木はボンヤリとしたシルエットで、
やわらかく映る。
私がそんなおとぎ話のような、
風景を眺めていると、
旧友が空と周りを囲う山の境界を指差す。
そこから雲がこっちに顔をのぞかせ、
ちぎれちぎれのワタ雲を、
ゆっくりゆっくりとこっちへ流しているのだ。
流された雲は次第にその形がくずれ広がり、
拡散して空に広がる。
まるで夜空にかかるレースのようだ。
ただ星の動きと雲の動きとが、
速さがあまりにも違うため、
その二つの層の間にはとても距離があるようだ。
多分この二つ層は、
まったく別の時間軸で動いているようだ。
そして地上の時間軸ともね。
少しの間考え込んでいると、
旧友が話しかけてくる。
雲が流れていって形を崩しながら、
そのうち靄のようになって消えてしまう…
あれはどうしてなんだろうね。
私は答える。
夜空にとけて甘いお酒になるんだよ。
街灯もまばらな遠くの道路に、
思い出したかのように走る車のライトを見て、
私はこの不思議の国と現実の距離に気づく。