スコール
-1-
この夏はなつらしくない。
梅雨があけても真夏感はなく、
いつも決まって夕方になると、
雨のにおいがしてきて、
少しすると雷と共に雨が降り始める。
いくらその日が晴れていても、
日が沈みかける頃には、
雨雲が雷と手をとってやってきて、
空を感傷的な灰色に変えてしまう。
次第に降り出した雨は、
新緑や大地に吸い込まれ、
しとしとと音を立てて、
あたりの空気を沈める。
遠くのほうでくすぶっていた雷鳴が、
突然大きな音をたてて、
その空気を引き裂く。
霧のようだった雨が、
それが合図だったかのように、
大きな雨粒へと変わる。
モノクロームの映画のノイズのようだった雨が、
空から放たれる集中砲火のようになる。
窓にたたきつける雨で、
景色がステンドグラスのように歪む。
地面を跳ね返った雨粒たちによって、
ザザーという音が響く。
まるでチューニングがあっていない、
ラジオのようだ。
空全体からフラッシュがたかれた後、
少し間を置いて、
けたたましい轟音がそのノイズに割り込む。
スピーカーが壊れてしまうんじゃないかと心配になる音量だ。
ボリュームを下げればそれまでなんだろうが、
自然を前にして人間というのは何もできない。
ただその一瞬が通り過ぎるのを、
待つことしか出来ないのだ。
幸いにもそのような激しい時というのは、
そんなに長く続くものではない。
いくつものフラッシュと轟音ののち、
それらの勢いは弱まり、
雨もその攻撃性を潜め、
また淡いモノクロームへと戻っていった。
相変わらず思いだしたかのように、
空が光り遠くのほうで雷鳴が轟くが、
それには以前のような破壊力はなく、
雨音が奏でるBGMの一部にしか過ぎない…