スコール

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この夏はなつらしくない。
梅雨があけても真夏感はなく、
いつも決まって夕方になると、
雨のにおいがしてきて、
少しすると雷と共に雨が降り始める。

 

いくらその日が晴れていても、
日が沈みかける頃には、
雨雲が雷と手をとってやってきて、
空を感傷的な灰色に変えてしまう。

 

次第に降り出した雨は、
新緑や大地に吸い込まれ、
しとしとと音を立てて、
あたりの空気を沈める。

 

遠くのほうでくすぶっていた雷鳴が、
突然大きな音をたてて、
その空気を引き裂く。

 

霧のようだった雨が、
それが合図だったかのように、
大きな雨粒へと変わる。


モノクロームの映画のノイズのようだった雨が、
空から放たれる集中砲火のようになる。

窓にたたきつける雨で、
景色がステンドグラスのように歪む。

地面を跳ね返った雨粒たちによって、
ザザーという音が響く。

まるでチューニングがあっていない、
ラジオのようだ。

 

空全体からフラッシュがたかれた後、

少し間を置いて、
けたたましい轟音がそのノイズに割り込む。

スピーカーが壊れてしまうんじゃないかと心配になる音量だ。

 

ボリュームを下げればそれまでなんだろうが、
自然を前にして人間というのは何もできない。

ただその一瞬が通り過ぎるのを、
待つことしか出来ないのだ。

 

幸いにもそのような激しい時というのは、
そんなに長く続くものではない。

 

いくつものフラッシュと轟音ののち、
それらの勢いは弱まり、

雨もその攻撃性を潜め、
また淡いモノクロームへと戻っていった。

 

相変わらず思いだしたかのように、
空が光り遠くのほうで雷鳴が轟くが、

それには以前のような破壊力はなく、
雨音が奏でるBGMの一部にしか過ぎない…