2017-09-13から1日間の記事一覧

あの日のフォークロアー

- 物質の記憶- それは、とても不思議な天気の日だった。 突然の雨に足止めをくらった僕らは近くの喫茶店に入った。店内には、僕と彼女、そして向こうの席にはカップルが1組。席に通されて落ち着くと、彼女は言った。 「…変な話してもいい?」僕はこくりとう…

映画

「映画って、ハッピーエンドだとつまらないのよね。」 ポテトフライに手を伸ばしながら彼女は言った。映画館帰りの、喫茶店での一言。普段の楽しげな君には珍しい言葉だった。 「そうかもしれないね。」僕は返した。 ただ君は今、遠くをボーと見ている。その…

プリズム

この思いは伝わらない。 はかない願いは瞳の上で七色に分かれ、黒いレンズに吸い込まれ、雫になってこぼれ落ちる。 いくつもの波紋が広がり、水面に落ちた音は冷たい空間に幾重にも反響する。 別れ出た音はふわっと白く輝き、淡く浮かび上がった思い出を、や…

少女

この石を君にあげよう、男は言った。彼女はそれを受け取り、純粋な眼をして見つめる。 彼女は売春婦。もうずっとこの粗末な小屋で客を待つだけの生活。ある日突然何も分からず連れてこられた。このあたりの地域ではよくある話だ。生きるためにはどうしようも…

ニュース

土曜の朝、トーストが焼ける匂い。ベッドの傍らにはまだ彼女のぬくもりが残っている。彼女の残り香をたどって、ベッドを抜け出し髪ををボサボサをかきながら、キッチンへと向かう。 彼女は僕に気づき、ふわっと表情を柔らげる。 おはようと互いに言葉を交わ…

二人

そこにいるはずのなのに、ふれあえない。空を切る手。彼女はアメ細工のように、美しく透き通る。 何かを話しかけてくるが聞こえない。僕もこの言葉を伝えようとするのだけども、分からないと言うような、困った顔をする。 困り果てて頭を抱え込んだ僕に、彼…

白日夢(リプライズ)

私は誰よりも早くあの朝日を見る。私は誰よりも早くあの朝日を浴びる。 私の影を闇からくっきりと浮かび上がらせる。世界にまた秩序が戻る。 私は誰よりも切に平穏を夢見る。そしてただ平穏の中にたたずむ。 また生命が動き出す。

夜明け

日が変わる頃から明ける頃、小鳥が鳴き始める。 レースのカーテンが、その鳴き声、空気につられて肌をなでる。 ぼんやりとした目で、窓から射し込む光の向こうの、だんだん色づく世界を見る。 パステル画のような夜明け。 空が優しく色づいてく、雲がわたが…