汽車

あの日のノスタルジーの風景に
思いを馳せて

汽車がモクモクと白煙を巻き上げる
遠くの方の鉄道橋を行きすぎる

影のようにまで落ち着いた
アーチのシルエットに
汽車の窓から灯火が溢れる

乗客は様々で、小さく
でもすごく精巧な
作り物のようにも映る

あたり全体が燃える夕日の色に染まり
行き交う少年少女の頬を
オレンジに染める

僕はそんな絵画を眺めている

細胞の一つ一つが憶えている
時が充満する

流れる時間の中
目の前の静止した時に想い馳せた

そう、もう黄昏時はとっくにすぎた

成長

きれいなピアノの旋律に
花がふってくると思う
ふわふわとたゆたって
キラキラと輝いて

白い光を乱反射して

きっと夢中で歩いてきたんだもの
君にふってきたんだと思う

雨は土をうるおして
光は緑をはぐくんで

君は大きくなった

闇が孤独に気づかせて
光の輝きを強めて

君は大人になった

花のように美しく
今咲きほこる君よ

どうかどうか
僕のこの世界を祝福しておくれ

僕は今
君のそんな歌を聞きたいんだ

星座

君は気づいていたんだね
僕が僕であることに

君が君であるのと
同じように

きっと君は優しいから

目印になるようにと
夜空に散りばめた
星の名前を教えてくれたのかい

どこにいても思い出せるように

ちゃんと憶えているよ

誰のための法なんだ
常識が僕を縛る

いったい何のための法なんだ
日常が自由を追いやる

僕は忘れっぽい
きっと、すぐ忘れてしまう
(うそ、忘れたふりをしただけだ)

僕は怒りっぽい
きっと、目をつむることは出来ない
(ほんと、理不尽なことは嫌い)

感情が僕を縛る

あの日の涙は忘れてしまった
(うそ、それを糧に進もうと思う)

どうにもならない想いは
少し吐き出して
また新鮮な空気を吸って

僕はまた感情を忘れようとする
(…絶対に忘れたくないんだ)

花瓶

冷たく、ヒンヤリとした
陶器の花瓶が言う

「死を思え」

誰に向けてではなく
その言葉を外へと発散している

しかし、その冷気は
それとは裏腹にとても美しい

生けられた花が
野生の精気をたたえたまま
ただその冷気によってか
美しくそこにあり

静かに静かに
ゆっくりと朽ち果てていく

枯れ落ちた花弁の一枚にさえ
その美しさは宿っていて
朽ち果ててもなお
それを讃えている

「死を思え」

きっと次に生けられる花も
このように美しく散って行くのだろう

約束の場所

僕たちは変わらないと誓った
ずっと変わらないと誓ったんだ

目の前には10年前と
変わらない君がいた

あの日
空が降ってきたあの日

すべては
あの青の中にのまれた

僕は激しい動悸と
うれしさとで
息をするのも苦しい

青い空が降ってきて
そしてすべてのものを
白い光にのみこんだ

そんな記憶ももう
輝きも落ち着いて

そんな景色もあせて
嘘のような気さえする

僕はいったい
どこへ行こうというのだ
あなたさえ忘れて

かなしいのは、きっと僕のせいだ